常本八のブログ

映画や漫画、本など。

【時計じかけのオレンジ】独特な近未来観がたまらない

 

 

 

 

え?

 

 

なにその衣装?

 

 

こんなオブジェ、置いていいのか……

 

 

こんにちは、常本 八と申します。

 

 

超名作映画、スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」を観ました。

 

衝撃的な場面の数々にドン引く人もいるようですが、私は楽しめました。

劇中で行われる犯罪行為の数々は許されざるものでしたが、奇抜な世界観には思わず爆笑してしまいました。シリアスさと面白さのバランスが丁度よかったです。

 

 

この時代に考えられていた奇抜な近未来観、好きなんですよね。

 

 

あらすじ

舞台は近未来のロンドン。

 

主人公のアレックスは、「ドルーグ」と呼ばれる非行少年グループのリーダーであった。一般市民に暴力をふるい、目先の欲求を満たすだけの日々を満喫していた。

 

ある日、アレックスはグループの方向性をめぐってメンバーともめてしまう。その場では3人を無理やり服従させたものの、その夜強盗に入った際に裏切られ、警察に逮捕されてしまった。

 

アレックスは日々繰り返してきた悪行の結果、14年の刑期が課せられることになった。

アレックスは今後どうなってしまうのか。また、刑務所の中で囁かれる最新の「ルドヴィコ療法」とは何なのか。

 

 

感想(ネタバレなし)

アレックス達ドルーグのメンバーは「殴る」ことを「トルチョック」、「素晴らしい」ことを「ホラーショー」と言い換えるなど、独特の言い回しをします。これはロシア語をはじめとした海外の言葉をもじった「ナッドサット語」という造語で、作中では若者言葉のような立ち位置となっています。最初こそ戸惑いますが、不思議なもので聞いていると次第に癖になってきます。

 

ナッドサット語についてはこちらで詳しく解説されています ↓↓↓

【台詞・言葉】『時計じかけのオレンジ』に登場したナッドサット言葉をまとめた「ナッドサット言葉事典」

 

この作品の特徴として、奇抜な世界観があります。

壁が色つきの鏡のようになっていたり、どぎつい色の市松模様だったりします。この時代には未来にこういうデザインが流行ると考えられていたのでしょうか。とはいえ、これがいいアクセントを生んでいることは確かです。

 

どこかでこのデザインを見たことがあると思い考えを巡らせたところ、「小学生の図工の時に使ったキラキラした紙」であることに気が付きました。

 

これはいらすとやから頂きました。ホログラムシートというそうです。

いらすとやは本当に何でもありますね。

 

 

また、この世界には「性」に関した表現が多く出てきます。

例えば、ドルーグの行きつけの「コロヴァ・ミルク・バー」には、壁に全裸の女性をかたどったミルクサーバーが、また、床にはブリッジをしている全裸の女性のテーブルが置かれています。

あまりのイカれたデザインに思わず爆笑してしまいました。

 

他にも、強盗に入った家には滅茶苦茶大きな男性器のオブジェクトがさも当たり前かのように置いてあります。そして壁一面には女性の裸体の絵画。

あまりに大胆すぎるインテリアの数々に「近未来の表現が独特だな~」と爆笑しつつも、いくら時が移ろったとしても人間の根本は変わらないのだなぁと考えていました。

 

あ!

一番の爆笑ポイントは、アレックスがレコード店でナンパした2人の女性をベットに連れ込むところでした。服を脱がせいちゃつき、服を着たらまた脱がせいちゃつき……繰り返される「いちゃつきループ」が滑稽でたまりませんでした。

 

割としっかり描かれる性描写が大丈夫な人は観ていただきたいですね。

 

感想(ネタバレあり)

ルドヴィコ療法を受け出所したアレックスは、今まで暴力を振るってきた人々から報復を受けることになりました。これまでのアレックスの行動は許されざるものですが、それにしてもやりすぎではないかという位執拗な攻撃を受けます。

 

罪を犯した人は、法が定めた程度に応じて適切な刑罰を受けることになります。

 

しかし、一般人が独自の裁量で悪人を罰した場合、その罰は本来その人が受けるべき刑罰の量を超すことがあります。

これは、その人の攻撃で犠牲者がそれだけ傷ついたということでもあるかもしれません。軽い気持ちで行われたかもしれない暴力が、その人の今後の人生を壊してしまうということもあります。

 

一方で人間は「この人は悪だ」と判断した時、自分の負った傷を超えてその人を必要以上に攻撃してしまうこともよくあります。

 

このように、人を罰する際にその人の罪を適切に裁量するのは難しいものです。そのために法という明確なルールが定まっているのです。

 

このことが示すように、人間は時に残忍です。暴力は、使いようによっては自信を守ることに使えます。自分の欲求を満たすためだけに暴力をふるうか、復讐のために暴力をふるうかで大きく違いはあるものの、暴力それ自身を制限すべきでないということです。

 

実際、ルドヴィコ療法を受けたアレックスは、暴力的・性的な行動すべてに拒絶反応を示すようになったことにより、他人から暴行を受けても自衛のための抵抗すらできなくなってしまいました。暴力そのものを制限することで、人間が生きるのに必要な最低限の力すら行使できなくなっているようでした。

 

残虐性を排除し善良な人間を作ろうとした一方で、自衛の手段すらとることができなくなったアレックスは、仕組まれたプログラムによって動く機械のようになってしまいました。「人間」を作ろうとして「機械」が出来上がるとはなんとも皮肉が効いています。

 

劇中で牧師が放った、

「善は選択することで善となる。人間が選択できなくなった時、その人間は”人間ではなくなる”」

というセリフが思い出されます。

 

人間から「自分で物事を判断する」能力を取り除くべきではないのです。

 

 

最後にアレックスは苦しみに耐えかねて飛び降り自殺をしてしまいます。結局それは未遂で終わるのですが、昏睡状態になってしまいます。目を覚ますとアレックスはルドヴィコ療法の兆候がなくなっていることに気づきます。昏睡状態の時に「誰かに脳をいじられていたみたいだった」というアレックスの発言から考えるに、昏睡状態の時に医師が脳をいじったのではないかと思います。

 

これによりアレックスは「完全に治った」わけです。人間性を取り戻せてよかったですね。今後はその人間性を暴力に訴えることや性の快楽にささげるのではなく、まっとうな人生を送ることにささげてほしいと切に願います。

 

 

 

タイトルの「時計じかけのオレンジ」の意味に関しては私は明確な考察ができませんでした。そもそもオレンジ自体出てきませんし、オレンジで比喩されるようなものに気づけなかったのです。

 

調べてみるとロンドン東部の労働者階級のスラングから解釈するものや、マレーシアの言語で人間のことをorangというということから解釈する考えなどがあるようでした。

 

こういう海外の言葉遊びに気づける人は教養もあり凄いと思います。理解できるようになったら面白いだろうな~

 

 

youtu.be

「時計じかけのオレンジ」予告編

 

 

以上「時計じかけのオレンジ」、最近の中でもかなり好みの映画でした。近いうちにキューブリック監督の「2001年宇宙の旅」も観ようと思います。

 

奇妙な近未来観でいえば、「未来世紀ブラジル」も好きなのでいつか記事にできればと思います。

 

 

 

 

 

本日はここまで。

よかったらまた読みに来てください。

【ムカデ人間1~3】ムカデ人間グロさランキング!

 

不快さ・グロさ・倫理観の無さ:

 

2>>>>>>1>3

 

 

 

 

個人的に好きな順:

 

1>3>2

 

 

 

 

世間的な評価:

 

1>2>3(特に3は酷評気味)

 

 

 

 

 

2は気持ち悪すぎるので覚悟を決めてから観よう!

 

 

 

こんにちは、常本 八と申します。

 

 

皆さんは伝説のカルト映画「ムカデ人間」を知っていますか?

名前は知っていてもあまりいい評判を聞かないので観るのをためらっている、という人は多いと思います。

 

私は少し前に観たのですが、そのインパクトの強いこと。この衝撃は一生忘れません。

 

とはいっても、事前にどんな映画かある程度知っておけば心の準備を整えて余裕をもって視聴できるかもしれません。

今回はそんな人に向けてムカデ人間についての感想を書きました!

 

 

 

 

 

ムカデ人間

あらすじ

旅行中の女性リンジーとジェニーは、車のパンクをきっかけにとある一軒家に電話を借りに行く。

 

その家には、シャム双生児(体が結合して生まれてきた双子)の分離手術の名医、ヨーゼフ・ハイター博士が住んでいた。

 

ところが、ハイター博士にはとある狂った夢があった。人間の口と肛門を接合し、数珠繋ぎにすることで「ムカデ人間」を作るというものだ。

 

そうとも知らず中に招き入れられた2人は、ハイター博士に捕らえられてしまう。

 

ムカデ人間の被験者として捕らえられてしまったのは、リンジーとジェニーのほかに、日本人ヤクザ、カツロ―の計3人。ベットに縛り付けられた彼らは、なすすべなくハイター博士の施術説明を聞かされる。

 

ムカデ人間になってしまった彼らは、無事助かることはできるのか。

 

感想(ネタバレなし)

目を背けたくなるような汚いシーンがあります。ポップコーンは不要かもしれません。

ムカデ人間シリーズ最初の作品にして、お手本のようなムカデ人間が見れます。

 

ただひたすらにグロテスクなこの映画において、日本人が出てくるのが唯一の救いです。狂気的な海外映画にメチャデカ関西弁が挟まれるのが笑えます。

笑いは場の雰囲気の緩急により生まれるという話を聞いたことがあったのですが、この映画を観た後ならば確かに頷けます。こんな形で笑いの本質に触れることになるとは思いませんでした。

 

あれ、それなら日本人以外が見たらただのグロ映画……?

 

気になって有名な海外の評価サイトであるRotten Tomatoes、IMDB、metacriticをチェックしたところ、確かに日本のより低めに評価されているみたいでした。

 

日本の評価↓ 

ムカデ人間 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

☆2.8

ムカデ人間のレビュー・感想・評価 - 映画.com

☆2.6

ムカデ人間 の レビュー・評価・クチコミ・感想 - みんなのシネマレビュー

だいたい☆2.6

 

 

海外の評価↓

The Human Centipede - Rotten Tomatoes    

トマトメーター(評論家による評価)がだいたい☆2.5

オーディエンススコアがだいたい☆1.8

The Human Centipede (First Sequence) (2009) - IMDb

だいたい☆2.2

The Human Centipede (First Sequence) Reviews - Metacritic

メタスコア(評論家による評価)がだいたい☆1.5

ユーザースコアがだいたい☆2.0

 

日本と海外で評価が異なるのは興味深いですね。ちなみに、日本でも評価の低いムカデ人間2,3は海外だともっと評価低いです。日本人はこういうぶっとんだ映画をネタとして楽しむ文化がありますからね。

 

 

ムカデ人間というシリーズのベースとなる本作は、唯一無二の作品です。そういう意味で好きな人は多いのだろうと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

最後に言わせてください。

 

 

接合面を!

 

 

写すな!!!

 

youtu.be

「ムカデ人間」予告編

 

ムカデ人間2

あらすじ

地下駐車場の警備員エあるマーティンは「ムカデ人間」というカルト映画のファンであり、自分自身もムカデ人間を作りたいという夢を持っていた。

 

その結果、地下駐車場を利用している人をバールで殴り気絶させ、ムカデ人間の被験者を集めはじめるようになった。

今回集まった被験者は12人。手術経験のないマーティンは、苦労しながらも12人の結合に着手する……

 

感想(ネタバレなし)

グロいし気持ち悪い~

視聴中はポップコーンおろかコーラも不要です。

作中は終止白黒映像です。しかしそれでもかなりきついです。

 

割と気持ち悪いと聞いていたので暫く観るのをためらっていたのですが、お酒を飲んだとき勢いで観始めました。最初は酔いもあってまだ大丈夫だったのですが、

一番きついところで酔いが覚め始めて、激しく後悔し悶絶しながら観ることになりました。

あ~あ。

 

倫理観など1ミリもありません。

「道徳」の対義語です。本当です。

 

被験者たちを棒で殴って気絶させるシーンがあるのですが、被験者が死なず、かつちゃんと気絶することのできる力加減で殴るのが上手……と思ってみてました。

 

主人公のじっとり汗ばんでいる感じが不気味さ、というか不快感を倍増している気がしました。

 

カルト映画好きな意中の人と話を合わせるという目的でもない限り、観なくてもいいかもしれません。

 

 

 

でもここまで言われたら、逆に観たくなってきたって人もいるんじゃないですか?

そういうもんですよね。

 

youtu.be

「ムカデ人間2」予告編

 

ムカデ人間3

あらすじ

アメリカのとある刑務所では、所長であるビル・ボスが絶対的な権力を振りかざし、囚人に暴力をふるっていた。そんな高慢な所長の経営により、刑務所内の環境は最悪。高い離職率と不当に高い医療費により、州知事直々の訪問がなされた。

 

州知事は、ひと月で刑務所の経営方法を改善するように指示した。

 

ビルははじめ、囚人全員を去勢させることによって気性の安定化を図ろうとしたが失敗に終わった。

最終的に「ムカデ人間」というB級映画のファンである会計士ドワイトのアドバイスにより、囚人でムカデ人間を作るというアイデアを実行することになり……

 

 

感想(ネタバレなし)

グロシーンはシリーズ中一番少ないです。接続される人間の規模は一番大きいですけどね。

ポップコーンやコーラはご自由にお持ちください。ただし「塩っぽいキャンディー」の持ち込みはおすすめしません。

 

キャストに見覚えのある人が多いです。そして作中一番下品。

 

世間で酷評されている理由は、「皆が欲しているムカデ人間ではなかった」というのが一番多いと思います。本作はギャグに振っている節があり、1,2の超刺激的なムカデ人間を期待していた人には物足りず、ムカデ人間でにも、コメディーにもなりきれなかった作品と感じた人が多かったようです。

 

少なくとも起承転結があるので、シリーズの中では一番ストーリーがあります。

 

刺激的な映画を求めている人には物足りないかもしれませんが、そうでないならば2よりも楽しめるかもしれません。とはいえ、人を選ぶ作品ではあります。

 

 

ムカデ人間1でハイター博士を、3でビル所長を演じたディーター・ラーザー氏は2020年に78歳で亡くなられたようです。ムカデ人間3はラーザー氏の最後の出演作品となっています。ご冥福をお祈りいたします。

 

youtu.be「ムカデ人間3」予告編

 

 

 

 

 

 

この世の中には、私たちの知らない世界がある

 

常本:「あ~、とんでもない映画見ちまったな……たとえ演技だとしても、あのシーンは実際にやってるわけだもんな。

この世界のどこかであんなことをやってるって事実が受け入れがたいが……」

 

時計を見ると、18:00を回っていた。

これから友人とレイトショーに行く予定が入っていたので急いで家を出た。

行ったことのないミニシアターだが、時間通りに着けるだろうか。



結局迷い、気づいたら閑静な路地裏に来てしまった。そんな中、全身黒っぽい服を着た怪しい男が私に近づいてきた。

男:「すみませ~ん、お兄さん、お店お探しじゃないですか?」

どうやら風俗のキャッチのようだった。生憎1ミリの興味もない私は、なるべく男に目を合わせず通り過ぎようとした......しかし。

男:「複数人で楽しむ『数珠繋ぎコース』が目玉なんですけれど、いかがですか~」

私は思わず足を止めた。

常本:「数珠繋ぎ……?」

男:「そうなんですよ!当店は『とある映画』に影響を受けてましてね……」

 

 

理解できない世界が、この世の中にはある。

 

 

 

 

 

 

 

本日はここまで。

よかったらまた読みに来てください。

【女神の継承、ミッドサマー 他】儀式系ホラーを観た話

怖え~~~~~~~~~~~!!!

 

ミンちゃん、こんなになっちゃって......

 

除霊、はやくして~~~~~~~!!!!!

 

本編を見た今だととんでもないトラウマです。暗くてわかり辛いですが、この映像に彼女、映ってるんですね......

 

 

こんにちは、常本 八と申します。

 

 

ちょっと前に上映終了間際だった「女神の継承」という映画を観てきました。

 

今まで観た映画の中で1・2を争うくらい怖く、かなり好みの映画でした!

 

目に見えない存在との対話するため、お香を焚いたり糸を張り巡らせたり、動物の頭を捧げたり......

非日常のみで構成された儀式には、一種の美しさとおどろおどろしさが感じられていいですね。

 

そういうわけで、降霊・除霊や宗教をテーマにした「儀式系ホラー」にはまったのでした。

 

もう秋真っ只中で季節外れとなってしまいましたが、最近観た「儀式系ホラー」の感想を書きました。

 

 

 

 

女神の継承

 

 

あらすじ

タイのある村ではバヤンという女神の信仰が根付いており、女神の巫女が世襲制で引き継がれている。現在の巫女はニムという女性。ニムを取材するテレビクルーのモキュメンタリ―で話が進む。

 

ある日ミンという娘に「何か」が憑依する。ミンの体調は瞬く間に悪化し、想像を絶するような奇行を繰り返し始める。ミンに憑いたのは悪霊か、それとも次代巫女を継承させようとする女神の仕業か。

現巫女のニムをはじめとする祈祷師らが祈りをささげ、ミンが助かる方法を探す。その祈りの結末はいかに。

 

 

感想(ネタバレなし)

生々しく、描写の細かい宗教儀式が特徴的でした。

東南アジア特有のジメジメ感が画面越しに伝わってきます。

 

それに加え、これでもかという位用意されている恐怖演出。

特に、記事の冒頭にも紹介したナイトビジョンのシーンは怖すぎて心臓が止まりそうでした……

 

山奥にある女神バヤンの石像は神聖な雰囲気が漂っており、カメラで撮影することすら罰当たりな気がしてなりませんでした。特にニムが叫ぶ例のシーンでは、「いけないもの見ちまった」というような気分になりました。

ただの石像のはずなのにね。信仰心のたまものだよね。

 

ニムが生卵を割り、土砂降りの中祈り続けるシーンが印象に残っています。視聴中は生卵を捧げることにになんの意味があるのか不思議でした。比較的身近なものである卵を生の象徴ととらえ、生贄の代わりにしているのでしょうか。

 

観終わった後は、入場者特典のステッカーすら持ってるだけで呪われそうで不安でした(数日して恐怖心も薄れてきた頃にスマホケースに貼りました。)

ふた月ほど前からこの映画の広告を部屋に貼っていたのですが、悪霊に憑りつかれそうなので即刻はがしました。いい映画でした。

 

 

このポスターが一番好き。

 

 

感想(ネタバレあり)

最後のシーンでニムは、「女神が本当に存在しているのかわからない」と告白しました。

この発言により、作中での祈祷の必要性が根本から否定される可能性が出てきてしまいました。

 

ミンに憑りついた悪霊は確かに存在しています。

卵の中身が黒くなったり成人女性が赤子の声を出したりなど、常識では考えられない怪奇現象が起こっていたからです。

 

それでは、女神バヤンの方はどうでしょう。本当に存在していたのでしょうか。

 

色々考えた結果、私は「女神は存在しない」と結論付けました。

女神は存在しないというより、存在すると断定できないといった方が正しいかもしれません。

 

ミンがニムの問いかけに抵抗し暴れるという場面がありましたが、結局悪霊を退治するに至りませんでした。また、ミンは作中悪霊の正体を亡くなったミンの兄だと推察しましたが、その考えは誤っていました。

女神の存在を証明するようなエピソードはついに劇中描かれないまま終わってしまったのです。

 

人々に明確な影響を及ぼしていた悪霊とは対照的に、何の影響も及ぼさなかった女神など(たとえ存在していたとしても)いないに等しいのではないでしょうか。

 

最後の儀式でノイにバヤンが憑りついたようなくだりがありましたが、あれは所詮ノイの演技にすぎないと思います。

急に線香を逆向きに突き刺したことで、周りにいた人たちが「どういった意味があるのですか」とうろたえていたシーンは少し笑えました。

所詮儀式は意味ありげな行動をとっているにすぎず、行動に明確な理由などもとから存在しないということを示しているのではないでしょうか。

 

女神はあくまで人間の不安を肩代わりするために考えられた、都合のいい存在にすぎないのかもしれません。

 

そういえば、もう一つ疑問に思ったことがあります。

それはなぜニムは息を引き取ったのか、ということです。

私は、信仰心がカギであると考えました。

 

よく、「心のよりどころを有している人は強い」といわれます。

私は、悪霊が、心のよりどころを有していない人間に憑りつき操ることができると仮説を立てました。

それゆえ女神バヤンを信仰している巫女ニムや、キリスト教を信仰しているノイには憑りつけなかったのです。

 

しかし、ニムはこの事件の一件で女神を信じられなくなってしまい、心のよりどころを失ってしまいました。

そこで生じた弱さに付け込まれ、ニムは悪霊に殺されてしまったのだと考えました。

 

また、最後の儀式で参加者がが狂暴化してしまったのも、儀式が失敗したのではないかという疑念と恐怖で皆が心のよりどころを失ってしまったためだと考えました。

 

例えそれが存在しないものだったとしても、心のよりどころを持つというのは大事なことなのかもしれません。

 

 

youtu.be

出典:「女神の継承」予告編

この車は赤い。

 

 

ミッドサマー

公式のテンションが凄い。

こんなに素敵なツイートなのに、見る環境によって絵文字がしょぼくなっていたりするのが勿体ないと思いました。

 

 

あらすじ

とある大学生のグループはペレという留学生に彼の地元、スウェーデンの村の夏至祭に誘われる。

主人公であるダニーは、彼氏がスウェーデンの村に行くと聞き、ついていくことにした。

 

スウェーデンの村、ホルガ村には独特の文化が根付いていた。村に到着したダニーらは手厚いおもてなしを受け、楽しんでいた。

しかし、とある儀式を目の当たりにしてからというもの、村の印象は一変してしまう。

奇妙な祭りに翻弄されていく彼ら。

一体、見ず知らずの村でどうなってしまうのか。

 

 

感想(ネタバレなし)

「明るいホラー」と言いたいところですが、監督曰くこれはホラーではないそうです。人を恐怖させるという点に主眼を置いた作品ではないというメッセージだと解釈しました。

とはいえ、この映画を観て恐怖しない人はほとんどいないと思います。

 

ホルガ村のシーンはカラフルで、シンメトリーを意識した構図など独特な絵面が多く挟まれます。

また、衝撃的なグロシーンや奇妙な性描写があります。

 

タペストリーや壁を装飾するタイルが印象に残っています。

タペストリーのイラストが伏線になっていたりするらしいのですが、私はそこまで解読する気になりませんでした。

目が渦巻いているタペストリーが特に不気味で、いまだに頭から離れません。

 

また、劇中に何度か出てくる長机の場面。長机の配置がルーン文字を示しているという考察を見かけ、興味深いと感じました。

 

この独特の不快感はこの映画でしか得られないと思います。

そういった意味で価値のある作品だし、面白いと思います。ただ、もう一回見れるかと聞かれたら無理かもしれません。

この記事を書くにあたりもう一度観ようか迷いましたが、序盤数分で断念してしまいました。ディレクターズカット版もあるので、心に余裕があるときに観てみようと思います。

 

よかったと評価する人と、これはちょっと.....と評価する人に分かれている印象があります。人を選ぶ作品には間違いないので、評価が二分するのもわからなくもないと思いました。

 

なんだかんだ言って個人的には大好きです。

 

 

るまじはが祭祝

 

 

感想(ネタバレあり)

メイクイーンとなったダニーは、焼けていく小屋を見ながら笑みを浮かべました。

これは、自分を真に受け入れてくれるホルガ村という場所を見つけ、加えて今までの自分を縛っていた存在と別れることができた喜びから笑っているのだととらえました。

 

しかし、普通はこんな残虐なことが目の前で繰り広げられたら恐ろしくなると思います。それに、もともと仲間だった人々が焼き殺されているのを見て笑顔になるというのは、どんな憎しみや呆れの気持ちがあったとしても異常ではないでしょうか。

 

このことから、ダニーは一種の洗脳状態に陥っていたのではないかと考えました。村の人々は、心が弱っている人につけ込んで村の教えを信仰する市民を増やしてるのでしょうか。

それならば、この後ダニーは村の一員として人生を全うすることになるのでしょうか。

それとも、ダニーはこの後クリスチャンのように生贄にささげられてしまうのでしょうか。

 

ペレがホルガ村の訪問を持ち掛けたのは、夏至祭で生贄とする人間を連れてくるためでした(また、外部の人間の子供を授かり、村の中が近親者だけになるのを防ぐという目的もあると思います)。

それゆえ、もともとダニー達は生贄として使い捨てるための存在だったはずです。

しかし、ダニーは結局メイクイーンという重大な役職に就きました。村の外から来た人が急にそんな重要な役につくのには違和感を感じます。

 

この後にメイクイーンが生贄にささげられる儀式が待っていて、数少ない村人を減らさないためにあえて外部から来た人間をメイクイーンにしたのだとしたら、この行動にも納得がいきます。この村の住人だったらやりかねませんね。

 

とはいえ、ダニーは無事でいてほしいです。そうでなければ救いがなさすぎますからね。

 

狂った思想がはびこるコミュニティーの描写が見事でした。

 

 

youtu.be

出典:「ミッドサマー」予告編

 

 

ヘレディタリー/継承

そんなこと言わないでおくれ。

 

 

あらすじ

グラハム家の祖母であるエレンが息を引き取るところから話は始まる。

グラハム家は夫スティーブ、母アニー、息子ピーター、娘チャーリーの4人家族。

 

ある日ピーターは友人からパーティーに誘われる。

ピーターは母に車を借りていいか尋ねるが、パーティーに行くならば妹のチャーリーを連れて行くように言われる。

 

しぶしぶながらもピーターはチャーリーを連れていくが、パーティー先で口にしたケーキでチャーリーはアレルギー発作を起こしてしまった。

 

急いでチャーリーを病院に連れて行くピーターだが、その道中とんでもない事件が起こってしまう……

それを皮切りに、様々な悲劇がグラハム家を襲うようになる。

この一連の悲劇には、誰の思惑が絡んでいるのか。

 

 

感想(ネタバレなし)

急に死体が出てくるのでびっくりします。

母アニーの精神が狂っていく演技が上手でした。

悲痛な叫びや疲れ切った表情は、演技と分かっていても気持ちが落ち込みそうでした。

 

21世紀もっとも怖いホラー映画と呼ばれているので相当な覚悟を持って挑みましたが、思ったほど怖くありませんでした。不安さで満ちた部分がずっと続く感じなのでホラー映画の嫌な部分を凝縮したような作品だと感じました。

 

最後5分ほどがミッドサマーに似た雰囲気でした。

静かな夜に観たら怖いだろうなと思います。

 

 

感想(ネタバレあり)

アニーはジオラマ作家であり、作中でも度々グラハム家をはじめとした映画の様々な場面をジオラマで作っていました。

映画の一場面を俯瞰するジオラマは、グラハム家の行動が何者かの手中にあることを暗示しているかのようでした。

 

作中様々な場面でグラハム家の人々の前に「光」が現れます。

物語の最初、この光はチャーリーにしか見えていないようでした。しかし、話が進み家族の精神が浸食されていくにつれ、グラハム家の人間は皆この光を認知するようになりました。最終的にこの光はピーターに乗り移り、ジョーンからペイモンの召喚が完了したことを告げられます。

 

このことから、この光はペイモンそのものを表しているのだと考えました。グラハム家の人々は終始ペイモンに監視され、もてあそばれていたのだと思います。

 

それこそはじめから、家族の運命はペイモンやペイモンを召喚しようとしていた祖母エレンの手中にあったといえるかもしれません。

 

思い返せば、この作品は「そういえば、意味深なこと言ってたな~、書いてたな~」といった細かな考察要素が丁寧に散りばめられていたように思います。

 

巧妙な伏線と不気味な雰囲気こそが、多くの人の印象に残った所以なのかもしれません。

 

 

youtu.be

出典:「ヘレディタリー/継承」予告編

 

 

(おまけ)哭声/コクソン

儀式がメインの映画というわけではないのですが、女神の継承の共同執筆及び制作に携わっているナ・ホンジン氏が監督をしている作品ということで興味がわき、観てみました。

 

 

あらすじ

韓国のある村で、錯乱した住民による一家惨殺事件が立て続けに起こる。容疑者の体には必ず謎の発疹が現れていた。

 

小さな村で起こる不穏な事件の数々に村の住民は恐怖を抱いていた。そんな中、山に住む怪しい日本人の男が関わっているのではないかという噂が流れるようになる。

 

この奇妙な事件を担当している警察、ジョングは男についての調査を始めることにした。

 

ジョングが男の家を訪れてからというもの、娘ヒョジンの様子に違和感が現れ始めた。苦手なはずの魚をほおばり、何かにとりつかれたかのように罵詈雑言を吐くようになったのだ。

また、ジョングは娘の体に例の湿疹が現れていることに気づいた。

 

いったい、村には何が起きているのか。

一連の事件の首謀者は誰なのか。

 

 

感想(ネタバレなし)

娘の演技が上手でした。

あんなに小さいころから感情のコントロールが意識的に行えているという事実に驚きます。韓国映画はいつも子役の演技に驚かされている気がします。

 

なぜか思い返すたびに自分の中での評価が高くなっている不思議な映画です。

清書の引用があるので、聖書の知識があるとより楽しめると思います。

私は聖書については聖☆おにいさんで読んだ内容くらいしか知らないので、映画を味わいつくせなかった感じがあります。

 

 

感想(ネタバレあり)

結局誰が怪奇現象の大本だったのでしょうか。

怪しげな登場人物が複数出てくるこの作品では、この疑問を抱いた人が多かったと思います。

 

私は、國村隼演じる奇妙な日本人の男が首謀者だと考えました。

 

この作品には、ふたり「人ならざる者」が出てきます。

一人目は、日本人の男。確実に殺されたかのように思われてもなお復活していたことから人間ではないことは確実だと思います。

二人目は、謎の女です。突如消えたり祈祷師に怪現象を起こしていたことから、人間ではないように思えます。

 

男は、祈祷合戦のときに死体を蘇生させる呪術をかけていました。

奇妙な呪術を扱え、かつ村を助けようとしている具体的な描写がなかったので怪奇現象の大本である可能性が高いと考えました。

 

呪術師は男とグルである可能性が示唆されていました。理由は、劇中終盤で呪術師が事件現場の写真を撮っていたからです。男の家の祭壇に貼ってあった大量の写真は、呪術師が男に提供したものであると考えられます。

呪術合戦の差異呪術師は男を呪い殺そうとしますが、男は不死(復活することができる)であるということを知っていたと考えると不自然ではありません。

 

一方、謎の女はジョングの味方だったのだろうと思います。

男とグルである祈祷師に制裁を加えたり、ジョングに「鶏が3回鳴くまで家に帰るな。この言いつけを破ったら家族は全員死ぬ。」と助言し、結局その通りになった点がそれを裏付けています。作中の発言だけでは善人か悪人かの判断はできなかったものの、結局正しい忠告をしていました。

 

これらのことを踏まえ、作中の事件を起こした首謀者は男である可能性が高いと予想しました。

 

生き返った男の手にはキリストの様な穴が開いていました。また、洞窟を訪れたイサムにお前は何者かと問われた際、なんと言ったところでお前の考えは変わらないだろうねと吐き捨て、鬼の様な見た目変貌していきました。私は、これが誰が犯人なのか混乱している私たち視聴者に対し向けられたメッセージなのだと考えました。

例えその人が村を救おうとする善人(キリスト)だったとしても、疑いのまなざしをもっていれば次第に悪者に見えてくるものだ、ということを伝えたかったのだと思います。実際作中でジョングは、味方をしていた謎の女が悪者だと決めつけてしまいました。

 

とはいえ、謎の女はもっとジョングと対話すべきだったと思います。ちゃんと話し合いをしないと相手の理解は得られないのですから。

 

 

www.youtube.com

出典:「哭声/コクソン」予告編

 

 

まとめ

女神の継承はバンジョン・ピサンタナクーン監督コクソンは韓国の監督であるナ・ホンジン監督、ミッドサマーとヘレディタリー/継承はアリ・アスター監督の作品です。ナ・ホンジン監督は女神の継承で共同執筆及び制作にもかかわっています。

 

同じ監督の作品を続けざまに見ると、似たシーンこのシーンが改良されてあの作品があるのだなと、表現技法の進化に気づけて面白いですね。

 

 

「哭悲 The Sadness」と「呪詛」が怖くていいと聞いているので、機会があれば見てみようと思います。

 

 

さようなら。

よかったらまた読みに来てください。